2014-01-15

米国に習う必要はない。

昨日(14日)、またアメリカの学校で銃の乱射事件が起きた。ニューメキシコ州の中学校で、何とのその学校の12歳の生徒が犯人である。今のところ同校生徒2人の重傷が伝えられているのみで、死者はでていない。何とか助かって欲しい。子どもだからこれくらいで済んだとも言えるが(一昨年のコネチカット州の小学校は大人が乱射し児童26人が犠牲となった)、しかし中学生が銃で同じ仲間を撃つなどとても考えられない。日本でも放送しているアメリカンフットボールの試合の華やかな一面の裏で、アメリカを被う深刻な闇を感じざるを得ない。

最近読んだ本に、堤未果さんの「(株)貧困大国アメリカ」がある。その中で日本でも有名な全米ライフル協会(NRA)が出てくる。銃の事件が起きると必ず彼の地でも銃規制の議論が起きるが、政治の場で本格議論になる前に沈静化する。その裏に全米で絶大の影響力を持つNRAの存在も話題になる。

話は変わる。2012年2月にフロリダ州で17歳の黒人の少年が白人居住区の監視員に射殺される事件が起きた。射殺した監視員が逮捕されなかったことで話題になった。アメリカ社会の不思議で、ほぼ無防備な少年を射殺したのになぜと思ったが、その背景にはNRAの要請でつくらせた「正当防衛法」なる法律があるということを、恥ずかしながらこの本で知ることになる。身の危険を感じたら、公共の場でも殺傷力のある武器使用が認められるという。アメリカの地方分権は徹底しており、このような法律も州法で可能なのだ。日本でも地方分権は重要なテーマだが、ここまではいささかの感がある。なぜか。この話には続きがある。

フロリダ州議会がこの法律を可決したとき、州知事は「これであなたの家の庭に強盗が入ってきても、あなた自身と家族の安全が守れます」と言ったそうだが、以来同州の殺人件数は3倍に跳ね上がったと堤さんは指摘している。さて問題だが、それほど州の独立性が強いアメリカだが、全く同じ法律が全米32州で導入されているそうだ。これまたなぜか。ここにアメリカ人にも余り知られていない米国立法交流評議会(ALEC)という団体の存在がクローズアップされるのだ。

全米50州の州議会議員の1/3がALECに加盟し、85人の下院議員、14人の州知事、300人の企業や基金の民間代表が所属している。大半は共和党員だ。ALECは政治団体でもない。NPOだが、その運営資金は超有名大企業やNRAのような巨大団体の寄付による。あのウォルマートやエクソンモービル、巨大製薬会社のファイザーなどなど超有名多国籍企業が潤沢な資金を提供している。日本の武田薬品工業も入っているとか。なぜこれらの企業や団体がALECに資金提供するのか。

州の強い独立という行政システムがその原因となる。ALECに集まった企業は、業界にとってうまみのある法律の制定を法文も用意して要請する。政治家は全米に散って各州で同じ法律制定に向けて活動を開始することになる。こうやって税金、公衆衛生、労働者の権利、移民法、銃規制などなど、時には市民にとっては問題だが、企業や団体にとっては有益な法律が州議会を通過することになる。先の正当防衛法が32州で成立しているのもALECの活動のたまものということだ。

アメリカという国は、かつて日本に夢を与えたような国ではなくなった。自由も民主主義も市場原理の台頭の中で、株主中心主義、企業中心主義にとって変わられた。1%の超富裕層が99%の人々の生活の犠牲の上に成り立つ社会になってしまった。

ハリケーンが襲ったジョウジア州では、災害復興の中で75%の公立高校が大企業が経営するチャータースクールにとって変わられ、貧困層への復旧復興に自分たちの税金が使われるのに反対する富裕層が集まり、人口10万人の完全民間経営の自治体をつくってしまう。持つ者から持たざる者への施し的な貧困政策の行き着く先が垣間見える。税金を取られるばかりで自らに還元されないことが続けば、持つ者と持たざる者の溝は深まり、それは対立へと行き着く。貧困は貧困へ連鎖し、広がっていく。世界最高の富裕国アメリカが、今、自らが生んだ格差、そして貧困という病魔に冒されつつある。

社会の闇は弱い立場にいる者、子どもやお年寄りに襲いかかる。昨日、銃を撃った子どもの境遇はどうだったろう。アメリカの社会を覆う闇の犠牲者ではないだろうか。

特定秘密保護法の影に隠れ、義務教育である小中学校を民営化できる特区法が日本でも成立した。世界一企業が活動しやすい国にしようと労働規制も含め、未だに規制緩和の大合唱が続く。アメリカの多国籍企業が日本市場を狙うTPPの日本上陸を手招きするようにアメリカに媚を売る。

堤さんは、日本はどんどんアメリカ的になっていると指摘する。アメリカという国は成熟社会に入る前に社会は衰弱しつつある。

日本は何もアメリカに習う必要はない。日本は独自の歴史と文化、地勢と自然に支えられた成熟した国家になれるはずだ。まだ間に合う。

10-8-2013-2-54-44-PM

2014-01-15 | Posted in 日記No Comments »