The Memories of Tonkajohn
わたしが育った地域で、「お利口さん」の子どもは「ジョン」と呼ばれていた。
今ではあまり使われないが、わたしの小さいころは、おじいちゃんやおばあちゃんが「ジョンジョンやね」と言っては、子どもの頭を撫でていたのを覚えている。
柳川で「トンカジョン」といえば、大きなお利口さんの子ども。発展して「良いとこのお坊ちゃん」的な意味を持つ。
「トンカジョン」という柳川の方言を世に出したのは、「油屋のトンカジョン」と呼ばれていた北原白秋だった。白秋は詩集「思い出」の中で柳川弁を使い、詩を書いた。
「トンカジョン」の女性版は「ゴンシャン」。「トンカジョン」に「ゴンシャン」。何と響きがあり雰囲気のある言葉だろう。方言はその地域やまちの宝だと思う。
逃げるように柳川をあとにした白秋だが、柳川への思いは人一倍強かった。
「山門(やまと)は我が産土(うぶすな)雲上がる南風(はえ)のまほら 飛ばまし今一度」。白秋の詩、帰去来の一説である。
他界する前年のこの作品、強烈な望郷の念が胸を突く。
白秋は柳川というより柳川が存在する山門という地域を愛していた。残念ながら、平成の大合併で、その山門(郡)という地名は消えた。
人それぞれに故郷があり、思い出がある。故郷が悲鳴をあげる社会は決して人々を豊かにはしないだろう。
故郷を守る使命が自治労運動にはある。良いとこのお坊ちゃんではないが、故郷を思い自治労運動を愛する一人として
東京でも「トンカジョン」でいたいと思う。 江崎 孝 2007.10.1