2021-08

風立ちぬ No13  昭和の妖怪

 安倍首相が今年(2016年)になって、憲法改正を参議院選の争点にすることに言及しだした。与党と野党で3分の2の勢力を確保して、改憲をめざすというのだ。与党とはもちろん公明党も含む。解釈改憲を容認し安保関連法にも賛成した公明党だが、さすがに改憲となるとそうはいかない。山口委員長がすぐに「慎重に」と前のめりの安倍首相に釘をさす。
 確かに首相は少々急ぎすぎの感がある。懸案の集団的自衛権の行使を決め法律も整備した。事実上の改憲をしたも同じである。あえて憲法改正の大博打に打って出る必要はない。と考えるのが普通だろう。しかし安倍さんは違う。難病の発症を抑えつつ、国内外を勢力的に動きまわる。
 母方祖父「岸信介」の霊ではあるまいか。22日の所信表明演説の気合の入れようは、そう思ってしまうほど鬼気迫っていた。傲慢とも映るその姿は、何かに取り憑かれたかのようだった。首相の姿勢とは裏腹に決して政権運営は楽ではないはず。甘利大臣のスキャンダルはこれまでのそれの比ではないし、年明けから株安、原油安は黒田日銀の異次元緩和が全く機能せず、そのまま黒田リスクになりつつあることを物語る(この後すぐ黒田総裁はマイナス金利導入を決める)。八方塞がりの闇の中、安倍首相だけが異様に改憲に突き進む。岸信介の霊が操っているのか。そういえば祖父は「昭和の妖怪」と呼ばれていた。そんな、とあながち馬鹿にできないかもしれない。
 先日、立憲フォーラムの主要メンバー数人とインサイダーの高野孟さんや某通信社の次長を交え選挙情勢の議論を行った。真面目な話は1時間ほどで切り上げ酒宴での続きとなった。
 当然安倍内閣が酒の魚になる。
 「昨年の施政方針演説から少し変というか異様なんですよね。去年の施政方針演説も確かに安倍首相は元気があった。でも変なのは与党席の方で、あれだけ首相が気合を込めて演説しているのに静かなんです。演説に聞き入って水を打ったような雰囲気でもなく、かと言って拍手や掛け声が出るでもない。あえて言えば誰も聞いていない雰囲気で、首相だけが喋ってる、そんな感じが昨年の演説。それが今年は、首相の気合の入れ方は倍増し鬼気迫っていた。与党席からの拍手はそうでもない。むしろ何か白けた雰囲気なんですよ」。とこんな具合に私は前述の鬼気迫る安倍首相の施政方針演説の話をした。
 それを聞いていた高野さんや次長は至極納得した面持ちで、「そう。やっぱそんな雰囲気。そうなんだよね。自民党の議員なんか裏で安倍のことボロクソに言ってるから」と言う。
 強そうに見え盤石な政権運営のようだが実際は結構苦労しているのかもしれない。スキャンダルや失言が相次ぐのもそんなとこが理由かもしれない。
・・・・2016年1月22日執筆

 昭和の妖怪と言われる岸がなし得なかった悲願。首相としての憲法改正と東京オリンピック開会式参加。2016年、安倍に昭和の妖怪が乗り移ったのであろうか。この年の安倍の行動はそんな気さえした。
 思いは通じたのか、この年の7月10日の参議院選挙で自民56、公明14議席を獲得し維新などと合わせ参議院において改憲勢力3分の2以上の議席を得るが、2020年8月に退任するまで悲願の改憲は実現しなかった。悲願の一つは潰えた。
 昭和の妖怪が実現できなかったもう一つの悲願。岸は首相としての1964年東京オリンピック招致を決める(1959年5月)。しかし60年安保の責任で岸内閣は総辞職に追い込まれ、岸は首相としてオリンピック開会式に参加することはかなわなかった。この年の夏、2016リオデジャネイロオリンピックが開会する。次回の2020は東京オリンピック。それが決まった2013年の総理大臣は安倍であった。安倍は祖父同様にオリンピック招致を実現した首相なのだ。リオオリンピックの閉会式、スーパーマリオに扮した安倍が登場し唖然とする。こんなことを国の代表であるオバマがプーチンがメルケルがやるだろうか。安倍は臆面もなくむしろ嬉々としていた。昭和の妖怪が乗り移ったかのように。それほど彼は2020東京オリンピック開催に気合を入れていたのだろう。しかし4年後、新型ウイルス感染拡大でオリンピックは1年延期され、安倍はその後退陣に追い込まれる。あれほど気合を入れていたオリンピックの開会式に安倍は不参加を決めた。
 結局、安倍政権は何を残したのだろう。祖父もしなかった数の力だけに頼った解釈改憲くらいしかこれといって見当たらない。昭和の妖怪は乗り移ってなどいなかった。思想も見識も何もない3代目政治家の政権であったように思う。

2021-08-06 | Posted in 日記No Comments »