とんかじょんの「ふむふむ」

東京でちっご弁が飛び交った夜。

 ついこの前同郷の友人たちと銀座のおでん屋さんに行った。銀座といっても築地に近く気取った雰囲気もない。値段も手頃なのです。
 友人たちとは広瀬さん(唯一僕より年上)に川口くん、富安くん、森田くんの4人の市議と、彼らを引率するというとんでもない役回り引き受けた松本くんと柿崎くんの6人だ。福島の視察を終え(ほんとに真面目に視察してきたらしい)、帰りに僕のところに寄ってくれたのだ。僕たちの故郷は福岡県の南。筑後地方である。
 当日はこの6人に同じ在所から単身赴任している三角くんと僕を加え8人が揃うことになった。
「ばい〜。銀座にもおでんやんあっと」(訳 へ〜銀座にもおでん屋さんがあるんですか)
「高っかろもん」(高いんじゃないですか)
「ばさらか、腹んすいとるけん、はよたのもい」(いっぱいお腹が空いているから、早く注文しよう)
などと銀座のおでん屋でちっご(筑後)弁が飛び交う。彼らにいささかも遠慮はない。
「もうビールはよか。焼酎にすい。一升瓶はなかつかい」(もうビールはいらない。焼酎にしよう。一升瓶はないのかな)と川口くん。
 残念ながら焼酎を一升瓶で提供するような店は東京にはあまりないのです。
「四合瓶しかなかげな。しょんなかなけんそりにするしかなかの」(四合瓶しかないそうだ。仕方がないのでそれにするしかありませんね)ということで四合瓶を注文した。
 またたく間に瓶の焼酎はなくなっていく。そろそろと思って
「次ば頼まんと」(次を頼まなければ)と僕が言ったら、酒をつくる役の一番年下の柿崎くんが「江崎さん、もう2本目ですばい」と言う。
 まあよく飲む面々である。
 酒が進むにつれ声も大きくなる。もう地元と変わりがない。そもそも彼らが少々標準語をきどろうものなら、「東京もあつかですけんね」といった変な言葉遣いになってしまう。第一お酒も美味しくない。
 割り勘の値段を聞いて、「安かやっかん。こん店は良かばい」(安いですね。この店は良いですね) とそれぞれが感心し、店を出る。その後は似ても似つかぬ面々の銀ブラとなった。夜の銀座をちっご弁が飛び交ったのは言うまでもない。方言は立派な文化ばい。やっぱ故郷は良かばい、だった。まだまだ楽しい話はあるが機会があればまたします。

 

新潮文庫とギリシャの話。

 村上春樹と安西水丸という人の共著である「村上朝日堂」という新潮文庫を東京から高崎行の新幹線に乗る前に東京駅で買った。別に大した意味はなく、ただ単に面白そうだったから買った。第6感というやつである。当たった。まっこと面白い。文章が実に軽妙なのだ。
 エッセイだから最初から丹念に読み進める必要はない。たまたま開いたところから読める。
 関東甲地連のバレーボール大会のレセプションが前橋で開かれた。それに参加し帰る電車の中でたまたま開いたページがギリシャの話だった。
 著者がギリシャにいるときの生活は、朝起きて飯をくって泳いでまた飯を食って昼寝して散歩して酒飲んで飯食って寝る。という暮らしを延々と繰り返したそうだ。ギリシャに行ったことはないが、イタリアには行ったことがある。あの気候、風土ではと楽に想像できる。ダークスーツに身を包みソリッドのネクタイをピシリと締めたバンカーなどは全く似合わない。存在そのものが似合わない。
 ボタンを二つほど外した派手なシャツを着て胸元からは胸毛もチラチラ。パンツはやはり白のヨレヨレの綿かリネンだろう。
 さてさてそんなギリシャが今大変だ。EUからもっと節約して借金返せの大合唱である。特に真面目で金持ちのドイツはうるさい。
 しかしさしものドイツも気候と風土で培われたギリシャ人の天性の陽気さには勝てないと思う。ゼロか半分かと居直られたら、半分でも金返してもらった方が良いに決まっている。多分そんなことになる。

 

楽しきかな誕生日。

 8月は僕の誕生月である。もう随分と記憶がない。誕生日の8月11日を誰かに祝ってもらった記憶がとんとないのだ。
 夏休み真っ盛りの8月は友だちと会うこともないから、おめでとうと言われることもなかった。学校が始まる頃は僕自身ももうとうに誕生日のことは忘れていて、新学期に再開した悪ガキたちとの間で話題にのぼることもなかった。
 ところで息子の誕生日は2月14日である。かみさんは3日違いの17日なので、子どもの誕生日のついでにかみさんの誕生日も家族で祝うことになる。しかしそれから半年後となるとこれまた二人から忘れさられてしまうのだ。
 息子の誕生日はバレンタインデーだ。というか息子がバレンタインデーにたまたま生まれた。誕生日がそうなので母親は我が息子にチョコレートをプレゼントしている。そのついでに彼女は僕にも必ずチョコレートをくれる。まあ子どもがメインなのは仕方ないが、悪い気はしないのである。
 でもふと考えることがある。母親以外から誕生日のプレゼントもチョコレートももらわないとなると男にとって最悪の2月14日ではないか。もう24歳だが、そんな年があったかどうかはまだ聞けないでいる。
 さて我が方は最近、来年は多くの人が誕生日を祝ってくれるからね、と強がりを言うことにしている。8月11日が国民の祝日の「山の日」に決められた。言う自分が情けないが、良いのだ。来年から誕生日は朝から一人でビールを飲んで祝うことに決めているのだ。