日記

ただの先送り。何も変わっていない。

 安倍政権は、検察庁法改正法案を含めた国家公務員定年延長関連の束ね法案の今国会での成立を見送り、継続審議とすることを昨日決定した。野党は提出していた武田担当大臣の不信任案を取り下げ、国会を正常化し審議に応じることとした。
 C19の危機対応の最中。国会審議をこれをもって正常化することは当然だと思う。しかし、政府与党の対応は今秋予定される秋の臨時国会へのただの「先送り」であり、何も状況は変わっていないことを忘れてはならない。そもそも国家公務員定年延長法案は検察庁法改正法案とは切り離して審議されるべきもの。政府与党はそれを一括審議する「束ね法案」として提出し、それを束ねたまま先送りしただけである。
 しかも問題である検事の定年延長はすでに閣議決定で「法解釈を変えた」のであり、その現状はいささかも変更されていない。今回先送りされた検察庁法改正法案が成立しなくても安倍政権にとって痛くも痒くもない。政権が「法解釈変更を元にもどす閣議決定をしない限り」、政権の恣意的判断で検事の定年延長は可能であり続ける。
 現行法では検事総長のみ定年は65歳であり、その他は63歳。話題の黒川東京高検検事長は63歳定年組だが、前述のとおり安倍内閣が法解釈を無理やり閣議で変えて定年を8月まですでに延長している。
 現職検事総長の稲田氏は64歳。定年の65歳まであと1年ある。検事総長は定年とは関係なく慣例で2年の任期で回している。慣例通り稲田検事総長を今年7月で辞めさせ、その後任に定年延長した黒川氏をつかせる。これが官邸が描くシナリオだ。この傲慢な対応を今回の検察庁法改正で法の裏付けをしておきたい。ただその思いだけの法案提出でしかない。政権寄りと言われる黒川氏を次期検事総長にして、検察を人事で牛耳れることを見せつけ、政権の前にひれ伏させたい。かつて内閣法制局やNHKや日銀をそうしたように、だ。
 さてことはそううまくいくだろうか。まず今国会での法成立を世論に追い込まれ諦めた。7月、慣例に従わず稲田氏が辞めなければ黒川氏の検事総長の目は無くなる。稲田氏が辞任しても、そもそもこのような状況の中で黒川氏が官邸の思うがままに従うか。不確定なことばかりが残る。うまくいかなければそれだけ、安倍内閣は傷を負う。
 官邸は、なぜこんな無謀なことに突っ込んだのだろう。もちろん国民を甘く見ていたのは間違いない。しかしそれでもリスクが大きすぎたのではないか。
 昨年の今頃は令和おじさんで時の人となり、つい最近まで官邸の顔で豪腕を誇っていた菅官房長官の姿をあまり見なくなった。法案先送り決定の前、菅長官は閣法で提出した法案は成立させると強気だったが、その先送り決定の舞台に菅長官の姿はなかったようだ。
 一方、数少ない菅グループの一人である河井克行衆議院議員とその妻で案里参議院議員の広島地検の捜査は大詰めを迎えている。安倍政権に批判的な溝手前参議院議員の対抗馬として河井案里県議を候補に立て戦ったのが昨年夏の参議院選挙である。その意味で河井候補は安倍と菅という時の権力者の2銘柄と言われ、その分選挙資金も破格の1億5千万円が振る舞われた。その使い道で捜査されるに至った河井夫妻の捜査は黒に近い灰色だったが、今回の法案先送りで黒決定になったのではないか。そう考えると官邸の動きも納得するのである。
 面白いことに高検と地検という同じ検察組織の中で相反する動きが起きている。方や権力が検察を抑え込もうとし、方や検察が権力を追い込もうとしている訳で、ここに至って権力側にとって面白くない方向に双方が向かっている。
 傲慢なワンマン宰相とそれを支える豪腕官房長官の間に風が吹き出したと言われるのが、参議院選挙後。一年経って権力の中枢である官邸の有り様は大きく変わったようだ。
 しかしまだ何も終わっていないし、何も変わっていない。私たちの追求が弱まれば黒川検事総長が誕生し秋に法案が成立する。今回の決定は、「ただの先送り」であり、何ら評価に値しないのだ。

2020-05-19 | Posted in 日記No Comments » 
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