2017-04

安全保障の表と裏。「中国脅威論の嘘、その①」

 前回の「安全保障の表と裏」の続き。
 先日立憲フォーラムの集会で高野さんとお会いした。その時、THE JOURNALで書かれている「中国脅威論の嘘」を僕のブログで紹介しますけど、いいですか?と訪ねたら。「どうぞ。どうぞ」と快諾してくれた。といっても高野さんの文章をそのままコピーしたら相当な文量になるので咀嚼したものになる。
 まずは、海上保安庁の「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」をクリックしてみましょう。すると下記のような図が出てくる。image01  
 これは尖閣諸島周辺への中国公船の日本海域や接続水域に入った回数を示した図。赤い棒グラフが領海への侵入回数。折れ線グラフは接続海域への新入回数を示す。一目瞭然、2012年9月に赤棒が突然大きくなる。これは野田政権の尖閣諸島の国有化が原因。つくづく当時の民主党は馬鹿なことをしたと思うのだが、それを憂いてもしようがない。だが国有化の原因をつくったのは石原さんだ。アメリカの右翼シンクタンクの会場で国有化を宣言し、それを受け当時の副知事の猪瀬さんがカンパを実施。これが国民のナショナリズムに火を着けてしまった。石原都政は豊洲問題といい責任は重いのだが、この面々が責任をとることはない。
 蛇足だがブログ読者は国有化したのは魚釣島、北小島、南小島の3島であることは承知のことと思う。尖閣にはこの他に島と言えるものは2つある。それ以外は3つの岩礁。国有化しなかったのは久場島(くばしま)と大正島(たいしょうとう)。この2島は米軍の射爆練習場として在日米軍の排他的管理下にあるので国有化できなかった。米国は、2島を「Kobi Sho(黄尾嶼)とAkao Sho(赤尾嶼)」という中国名で正式に登録している。日本が主張する固有の領土とはもちろん尖閣諸島全体を言うのであろうが、日本領土問題に関する米国の二面性が見て取れる。日米関係についても勇ましいことを言う石原さんだが、この2島のことには当時全く触れなかった。無責任な人なのだ。
 話をもどそう。THE JOURNALから・・・13年8月に領海侵入は28隻というピークを迎える。しかし、丸1年が過ぎた13年10月からはかなり鎮まって、大体月に10隻前後で今日至るまでほぼ横ばいが続いている(16年8月が多いのは別の理由)。グラフの下に表があって侵入船数の詳細が日ごとにわかるようになっている。侵入数には一定のリズムがある。月に標準で3回。2回はあるが4回はない。1回当たり標準で3隻、たまに2隻や4隻のこともある。今年に入ってからもそのペースは変わらない。・・・
 高野さん「たまに新聞でも、産経と読売がほとんだが、小さなベタ記事で『中国公船、また尖閣領海に』というのが出る。それを見ると「また中国は尖閣でウロウロしているな」という印象だけが残るが、毎回記事になる訳でもない。毎回きちんと出るなら、逆に注意深い読者は月に3回ペースであることに気づくはずだが、そうもなっていない。」
 高野さんは不思議に思って海上保安庁に聞いた。そうすると「それだけ頻繁ということです」とそっけない。それで知り合いの中国人ジャーナリストに中国側から事情を探って貰う。そしたら「月3回」の理由が判明し「ビックリ仰天」する。
 衝撃の事実・・・中国の海警局には、北海と東海と南海の3分局があり、尖閣は東海分局の担当。その下に上海、浙江、福建の3総隊があってそのそれぞれが月に1回、出て行くことになっているから「月3回」となる。1回当たりは3隻が標準ユニットで、たまに都合で2隻になったり4隻になったりもする。目的は、中国が尖閣の領有権を主張していることを継続的にデモンストレーションすることなので、これで十分だ。余計なトラブルにならないよう、1回につき日本の主張する領海内に入るのは1時間半と決めているそうだ。しかも15年冬以降は事前に日本の海保に「明日行きますから」と事前通告するようにしているという。それで海保も「いつ来るか」と待ち構えていなくてもいいので、だいぶ楽になったと思いますよ……。
──高野「それは、中国側が一方的にルール化しているのか?」→「その通りで、海保も暗黙の内にそれを受け入れている」
──高野「それって“馴れ合い”というか、事実上の“棚上げ”ということではないか。」→「中国側はそう捉えている」・・・。

 日本のマスコミ報道や政府の話を聞いている危機感からはそうとう程遠く、高野さんは「むしろ逆に、尖閣はかつてないほど落ち着いた状態にあるといえる。」と言う。
 在日米軍の2島の占有支配の現実も含めて尖閣は日中米の関係が複雑に絡み合っており、中国もうかつな対応はできない。だから米中は不足の事態が起きないよう二者間体制をとっているが、日中間はついこの間までそんな外交ラインをつくってこなかった。このブログにも書いたが、以前中国が防空識別圏の見直しをし尖閣を自国識別圏内とした。その時も日本の対応は「一方的に変更」と中国の強硬姿勢を避難した。当時、僕(江崎)は防衛省を呼んで事実関係を聞いた。その時の担当者は、「(防空識別圏とは)自国のレーダーが及ぶ範囲において国がかってに決めていいしろもの」であり、「これまでの極東の識別圏は米国が勝手に線を引いた」もの。(中国側の)識別圏の変更は、「不足の事態が起こらないよう二国間の連絡協議体制をつくろう」という中国側のメッセージでもある。といたって冷静だった。・・・以下次回

2017-04-25 | Posted in 日記No Comments » 

 

安全保障の表と裏。

 トランプ大統領のシリア空爆以降、北朝鮮のミサイル発射もあり朝鮮半島有事危機がお茶の間の話題にもなりだした。どちらかと言えば僕はTwitter等で空爆を真っ正直にとらえることの危うさを主張してきた。マスコミの論調だけに左右されず、空爆以降の世界情勢がどうなったか(アメリカ国内も含め)を冷静に見極めていくことが益々重要だろう。恐らくこのブログをご覧の方々はそちらの方の面々だと思う。
 さて、そんな中、ジャーナリストの高野孟さんが、自身のネット雑誌「THE JOURNAL」で「中国脅威論の嘘」を論じている。興味深いので完結したら(上中下の3部構成のようで今は中まで発信中)、概略ここでも紹介したい。
 今日はそのさわりの部分にあったこと。
 あの冷戦時代、西側諸国はソ連脅威論で蹂躙されていた。我が日本も北の脅威に備え陸自の中心部隊を北海道に展開していた。冷戦後しばらくしてソ連に代わって出てきたのが、中国と北朝鮮の脅威論。中でも尖閣をめぐる中国との関係はことさら煽られるようになる。話は変わる。戦後、領土問題を3つも抱えた国は日本くらいだろう。そのいずれもがサンフランシスコ講和条約がらみ、つまり米国の戦後戦略に関係している。3つの領土問題の中で、唯一日本が実効支配している領土が尖閣諸島である。我が国が支配しているのだからデンと構えていれば良いのだが、なぜか政府はいつ中国に奪取されるか戦々恐々としている雰囲気を装っている。高野さんの「中国脅威論の嘘」ではそこんところ、つまり「安全保障の表と裏」を書いていてなるほどとなる。
 それた話が長くなった。
 週刊誌等が書き立てた冷戦時代の危機の醸成はこうだった。
 ソ連は極東に強力な機甲師団を2つ備えていて、これがいつ北海道に攻め込んでくるかわからない。それに備えて、陸上自衛隊1,000両の戦車で北海道原野で迎え撃つ、その間に空自や米空軍は出動し戦術核兵器の使用可能性含めて爆撃する。そうこうしているうちに沖縄から海兵隊が駆けつける・・・というのが日本有事のシナリオ。
 そこで高野さんは、当時「そんなことが本当に差し迫っていたのか」と陸自北部方面隊の幹部に「週刊誌はあんなことを書き立てているが、どうなんですか」と尋ねたそうだ。
 その幹部が言うには、「いまソ連の極東の港に輸送船がいないんです。戦車は空を飛びませんから、いかに強力な機甲化師団が存在していようと、それは“潜在的脅威”に留まっているということです。輸送船が欧州方面から回送されるなどして集結が始まったとなれば、それは“現実的脅威”に転化したと判断して、我々は戦闘準備に入ります」とのこと。なるほど軍人さんは冷静なのだ。
 「だったら、週刊誌があんな風に無責任に煽るのを放置しておくのですか」と訊くと、「あれはあれで、どんどんやって頂いた方が我々も予算が取りやすくなるんで……」というまことに率直なお話だった・・・というお話である。
 このように、安全保障には表の危機と裏の危機があることを知っておく必要がある。
 そう考えると、野田総理大臣時代、尖閣を国有化した。その頃、「動的防衛力」という新しい言葉が登場し、北海道に多く展開していた自衛隊を南の海洋に移す方向転換を行ったのが、当時の民主党である。なぜ尖閣危機が生じたか。その後、どうなったか。ここで詳らかに触れないことにするが、「安全保障の表と裏」を考える皆さんはとうに承知のことであろう。

2017-04-18 | Posted in 日記No Comments »