日記

腕時計と小さな夢。

福岡行きの飛行機に飛び乗り、座って気づいた。持ってくる予定の雑誌を忘れている。渋川市の皆さんとついつい話し込んだ。結局慌てて事務所を出ることになり鞄に入れ忘れてしまったようだ。

飛行機というもの。乗ってから眠くなるまでの時間は以外と手持ち無沙汰なのである。機内誌もまだ5月号。もう何回も開いたやつなので手に取る気にもなれない。

こんな時は文章を書くに限る。そのうち眠くなるに決まっている。何を書く?思いを巡らす。そうしていると何気にいつも左手に付けている腕時計が目にとまった。

SEIKOの機械式時計で「KS」のエンブレムが付いている。今は後継機の「GS」に取って代わられ、とっくに製造中止の代物。

そんな古い物がなぜ僕の腕で今も動いているか?である。実は父からの譲りものなのだ。といっても生前貰ったわけでもない。遺品の中に動いていないこの時計があったのだ。その時は別に気にもとめなかった。しばらくして「KS」が「キングセイコー」と読み、その名の通り当時のSEIKOの最高モデルだったことを知る。普通、男子が時計に興味を持つようになるのはそれなりに歳を重ねてからである。僕も30半ばになっていた。

今は機械式の時計ブーム。車を手にぶら下げているような高級時計もある。僕は今のどでかい分厚い高級おもちゃのような時計はあまり好きになれない。
さて父が他界して30年近くになる。だから父の元にこの時計が来たのは40年以上は前だろう。安月給のサラリーマンだった父がなぜ、どうやってこの時計を手に入れたのか?今は聞けない。聞いてみたいが聞けない。

だが何となくわかる気がする。歳を重ねてきたからわかるようなきがするのだ。初めて腕に巻いた時の父の笑顔を想像する。何となく目が熱くなってきた。

それから幾度となく修理を重ね、危機を乗り越え50年近い時を経てまだ僕の腕で動いている。何も話さなかった父だが思いを共有し時を重ねている気がする。
いつか息子に譲るつもりでいる。それがいつになるかと思う。息子は父が他界してから生まれたので、お爺ちゃんの顔も声も知らない。使ってくれるかどうかはわからないが、でもそれでも良い。大枚叩いて買った父の小さな夢が孫まで届く。それでいいのだ。果たしてそれまで動いてくれるか心配である。大事に使わなければならない。僕の小さな夢である。

ちなみに「GS」は「グランドセイコー」というもの。ちなみに眠くならなかった。

via PressSync

2016-05-23 | Posted in 日記No Comments » 
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