日記

写真と話1 ナウシカに会える窓側の席

初めて飛行機に乗ったのは、大学受験で上京する時だった。「スカイメイト」という学生専用の半額割引制度を利用した。この制度、空席待ちが条件だが、その後東京暮らしになったこともあり、随分と利用させて貰うことになる。早割とかLCCなどなかった時代だったから助かった。その時の席が窓側だったかどうかは定かではない。しかしこれから見る初めての空からの眺めに期待で胸を膨らませていたはずだ。その後も希望は窓側の席だった。
それがいつ頃からだろう。通路側を予約するようになる。飛行機をよく使うようになってからだ。「トイレに行くにも素早く降りるにも通路側。窓側なんて不便」と、ちょっとしたビジネスマン気取りで、景色よりも合理性となる。
ところがこの仕事になってからは、飛行機の手配は秘書のMさんがやってくれる。席は決まって前の窓側。この2年間いつもそうだ。せっかくだからそのまま何も言わずに座っている。そうするとやっぱり楽しい。建築中のスカイツリーを上から眺めることなんてなかなかできない。夕暮れ時、銀色に光る有明海。沖へ向かう一艘の舟が波をつくる。その扇型の波は驚くほど広く遠く、永遠に消えないものの様に広がっている。なんと美しかったことか。
 そんな景色に会うと「写真を」と思う。しかしできない。そう。決まってあの時間帯なのだ。「すべての電子機器の電源をお切りください」とアナウンスされるあの時間帯。今日もそうだった。いつものあのアナウンスがあった時、ふと外を見る。辺りには入道雲のモコモコした先っちょがいっぱい。入道雲の先に乗っかっている。猛スピードで飛んでるはずだが、モコモコのふわふわ感がジェット機に乗っていることを忘れさせる。雲の景色もいろいろある。青空から見下ろす白いカーペットのような雲海、届きそうなところを漂う綿菓子を引っ張ったような薄い雲などなど。しかし私はこのモコモコ雲の上に乗った浮遊感が好きだ。
宮崎駿監督のアニメ「風の谷のナウシカ」。ナウシカがメーヴェに乗って雲の中を自由に飛び回る時のあのシーン。アニメなのだが観ている者に感じさせるあの何とも言えない浮遊感と重なる。
きっと宮崎さんも飛行機にのって、僕と同じような思いを幾度となくしたに違いない。この日も目の前の雲間から、突然ガンシップやメーヴェに乗ったナウシカが出てきそうだった。
「写真に残したいな。でも・・・」。
「あのアナウンスはほんのさっきだったから」
とこっそりiPhoneを起動して撮ってしまった。しかし、時間が少したったせいで、あのナウシカの雲は写せなかった。
もちろiPhoneの電源はすぐに切った。許していただける範囲だと自己弁護する。少しの罪悪感と胸踊る景色を楽しめる飛行機の窓側の席は、やっぱり良い。

 

 

 

2012-09-19 | Posted in 日記No Comments » 
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