2010年末初版の「自由貿易は、民主主義を滅ぼす」という本を読んだ。仏人学者のエマニュエル・トッドの講演や対談をまとめたものだ。トッドは、題名のとおり新自由主義(ウルトラ・リベラリズム)あるいは市場原理主義下における「自由貿易は民主主義を滅ぼす」と主張する。それは、「民主的な政治体制は、本来、国民の生活水準を破壊するような経済体制とは両立しない」からでる。新自由主義がもたらすグローバリゼーションは、人件費をコストと見る。とすれば、「例えば日本人はもっと安い人件費の中国や、もっと安い第3国と永遠の競争を強いられることになり、結果、労働者であるほとんどの日本人はさらに貧しくなり、富裕層との格差は拡大する。これは民主主義ではない。」ということになる。なるほどアメリカや日本の現状を言い当てているとも言える。これがトッドの説でないならば、「そうは言っても」と反論したくなる。トッドと言えば、これまで多くのことを言い当てたことで有名なのだ。
1976年発行の「最後の転落」では識字率の上昇をひとつの根拠にソ連の崩壊を言い当てた。2002年発行の「帝国以後」…これは私も読んだ。極めて印象に残った本の一つだった…では「アメリカは帝国に非ず」とし、米国の猛烈消費社会を維持するための金融資本主義の継続性を否定し、証券パニックとドルの暴落によって、米国は2050年までにその求心力を失うとした。事実、2008年のリーマンショックに始まり、ドルに対する揺るぎない信頼は薄れつつあるのである。
恥ずかしながら私は、トッドの本は後にも先にも「帝国以後」しか読んだことはなかった。それがこの本を手にしたのには理由がある。先だって官製ワーキングプア議連で前総務大臣の片山さんを招いて話を聞いた。その中で片山さんは、「民主党こそ非正規問題に真剣に取り組むべき」と言う。「勤労者の3割を超える人々が、非正規雇用で労働基本権もない状態で放置されている現状の改善をすべき」、このまま放置すれば、「橋下市長のような主張に関心があつまり、排外主義が台頭する」危険性を主張される。まさにトッドの言う民主主義が滅ぶ可能性があるのである。そのとき片山さんが、この本を紹介したのである。片山さん自身が対談相手で登場されており、議連の講演で話されたことが本の中にも記述されている。
日本社会に停留し出した格差社会の特徴としての非正規問題は、正規職員との対立と相まって我が国の行く末を占う大きな問題となりつつある。トッドや片山さんが危惧するように我が国民主主義の根幹を揺さぶる問題であることを痛感する。そのために今、政治が何をすべきか。パート労働者への社会保険適用拡大で大議論しているようでは底がしれている。もっと根本的な議論が必要ではないか?民間レベルでできなければ、官が先行し波及させるということもあり得るのである。
本の中でのトッドの主張の要旨を記すまでのスペースはここにはない。興味の有る方は是非読んで欲しい。定価2800円で藤原書店から発行されている。