2017-03-27

EUと日本の苦悩。

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ローマでローマ条約制定60周年式典が開かれた。

 昨年臨時国会でのTPP(Trans-Pacific Partnership)条約批准の強行が遠い昔のようだ。トランプ大統領の就任後、あの議論は現実ではなかったかのような錯覚すらおぼえる。
 一方、欧州ではEUの起源とも言えるローマ条約制定から60周年を記念しての式典が25日、ローマで開かれた。60周年を祝った各国だが、イギリスの離脱や移民排斥が争点となる仏大統領選挙などが控え、EUの前途は多難である。太平洋沿岸の自由貿易協定の失敗と先駆者EUの苦悩。新自由貿易(私の造語=市場原理主義のもとでの自由貿易)の矛盾、行き過ぎたグローバル化への批判が世界で広がっている。

 ヒト、モノ、カネが国境を超え自由に往来する自由貿易体制とは一体どういうものか。EUを日本と置き換えてみるとEUが直面している課題と我が国が直面する課題が実は似ていることがわかる。
 さて日本。47都道府県を47カ国と仮定する。47カ国は協定を包括して結び、日本という地域内の自由貿易体制(TPPならぬTNPとでもしておきます。Trans-Nippon Partnership)が実現している。47カ国内はどこへ行こうが、どこに住もうが、どこで起業しようが、どこからどこに送金しようが関税(手数料は別)などの費用はかからず、すべて自由という究極の自由貿易体制、それがTNPでだ。各国、各国人は自由に競争できるが、気候、地形、地理的環境などなどそれぞれが違い、それぞれの産物も違う。当然不平等、格差が生じる。TNPの凄いところは、その格差を埋めるために地方交付税制度という経済支援システムを確立させているところ。TNPが各国にかけた税収の一部をTNPが一定の基準のもと各国に交付するという制度である。当然税収の多い国、経済大国は多く負担し、税収の低い小規模国が交付を多く受けることになる。しかしそれでも自由貿易体制の下では格差は拡大される。

 例えば東京国。この国の食料の生産量は47カ国で最下位。TNP内で最大の食料輸入国である。食料だけでなく車や電器製品も他国から輸入している。東京国民が生きていくうえで必要なものは何一つ自国内では満足に生産できないが、TNP体制によって金融、情報、交通、政治の中心となりヒトも集まり続け、経済大国となった。それに反して北海道国や高知国は食料などの輸出だけでは国内総生産が減り続け、国民の雇用も保障できなくなり、若者を中心に東京国への移民が激増している。TNPでは新たな格差解消システムや東京国に集中する経済システムを抜本的に解消する必要に迫られているわけだ。

 これをEUに当てはめてみる。東京国の存在がEUではドイツということになる。ドイツは東西ドイツの統合による危機を脱し、旧東ドイツの有能で比較的安い労働力をバネに生産性を上げた。当然ドイツポンドはEU内各国通貨に対してポンド高になるはずだが、統一通貨ユーロのためドイツのEU内競争力は維持され続けている。結果、ドイツの一人勝ち。EU内から職を求めて若者を中心に人が集まり続け、小国のギリシャだけでなく、イタリアからも人口が流出する始末である。これが今、EUが直面している問題。ブレクジットもある意味でこの問題が表面化したものと言って良い。
 これを解決するにはまずTNPの地方交付税のような経済支援システムをEU内で創設しなければならない。それでもTNPのように格差は広がるだろうが、今よりマシである。しかし実直なドイツ国民は東京国民と違って、小国に対して緊縮財政を迫り、加盟国間の格差は拡大し、地方からの人口流出は増大している。

 EU内のもう一つの大国フランスは、TNPではさしあたり大阪国のような存在だろう。かつての経済、文化の中心国はじり貧状態で、何とか東京国の恩恵を受けながら再起を目指すしかない。そんな状態なので右翼的な政党の隆盛を許してしまった。その結果、一発勝負の万博招致やカジノに期待をかけるといった独自性のかけらもない国に成り下がりつつある。
 フランスはドイツの後追いでしか存在意義を見せられなくなりつつある。こんなことを言っているのは私ではなくて、著名な同国の歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏。氏はユーロという通貨統合は「失敗した」とずーっと言い続けている。

 アメリカファーストを掲げるトランプ大統領の誕生、EU離脱へ舵を切ったメイ首相率いる英国。パックス・ブリタニカ、パックス・アメリカーナという新旧の2大覇権国が自由貿易体制からの離脱を図りつつある。両国は賢い。行き過ぎたグローバル化の修正をいち早く自国中心主義で図ろうとしている。EUと日本はどうか。ブロック経済と国内経済の違いはあれ、EUの苦悩は日本の苦悩でもある。いずれも早く解決策に着手しなければ地域間格差は修復不能となるだろう。

2017-03-27 | Posted in 日記No Comments »