2016-09-16

行き場を失いつつある安倍政治。

 「(参議院選挙は)安倍政権にとって勝負に負けて試合に勝ったようなもので、自民党憲法改正草案のような改憲は事実上困難になった」とブログに書いた(理由はそっちを見てくださいm(_ _)m)。その時は「他の部分の改正」、つまりいわゆるお試し改憲であるが、これは可能性としてあり得るとしていた。しかしその後、例の天皇の「生前退位の意向」報道と8月8日の平成の「玉音放送」でこれさえ困難になった、ともその後のブログで書いた。
 もう一つ、昨年8月に出版した(といっても一般で流通しているわけではありませんm(_ _)m)。僕の本の「『バカの壁』を超えて」の小林節教授との対談の中で、僕は教授にこんな質問をしている。
 「今回もし安保法制案を通して集団的自衛権の行使容認を決めてしまえば、それで安倍さんはアメリカとの関係も保てるわけだから、あえて憲法改正はやる必要がなくなるのではありませんか、当面。自民党としては実利をとったのだから、憲法改正はやらくてもいいと。」

 「THE JOURNAL」の編集長、高野孟さんが9月12日号で同じような記事を書いていた。
 天皇の「譲位」メッセージによって、安倍を支えてきた日本会議系をはじめとした右翼陣営は大混乱に陥っているとし、小堀桂一郎(東京大学名誉教授/日本会議副会長)が、天皇の譲位意向は「事実上の国体の破壊に繋がる」(産経新聞7月16日付)と天皇を正面切って非難したことをはじめ、百地章(日本大学教授)、渡部昇一(上智大学名誉教授)、加地伸行(大阪大学名誉教授)、大原康男(國學院大學名誉教授)、八木秀次(麗澤大学名誉教授)ら保守の論客の名を挙げ、「万世一系主義」イデオロギーを死守する立場から譲位反対論をぶち上げ始めたことを伝えている。
 「生前退位反対」を言えば言うほど自らがよりどころとしてきた天皇批判につながりかねない。何ともヘンチクリンな事になりだした。高野さんはそのことを、「彼らが敬愛しているのは天皇ではなくて、明治に薩長がでっち上げた「天皇制」という壮大な虚構なのである」と論破している。その通りなのです。だからここに来て保守の分裂が始まった。
 日本会議の方々のような明治に戻りたい保守は、ガラパゴス保守である。略してガラホ(と僕は呼んでいる)。いずれ消滅する絶滅危惧種なのです。当然、明治憲法の思想制を色濃く反映する自民党憲法改正草案が理解を得るはずがなく、それを執拗に追い求めれば追い求めるほど安倍政権の寿命は短くなる。天皇の平成玉音放送はそのあたりの矛盾を的確に射抜いたのですから、相当な戦術。守るべきは、薩長がつくった天皇制(大日本帝国憲法)であるか、天皇(日本国憲法)そのものか、という凄まじいもの。
 
 そんなことなので安倍首相もここにきてたじろぎだしている。
 高野さんは、日経BPnet 9月8日付の田原総一朗「安倍首相に本音を直撃!憲法改正、天皇の生前退位をどう考えているのか」の内容を紹介している。田原さんは首相官邸で1時間ほど安倍首相と懇談したそうだ。
 その中で安倍首相は「9条改正は考えていない。米国の要求だった集団的自衛権の行使を安保関連法で実現して、それから米国は一切文句を言ってこなくなった。米国の意向は飲んだのだから、安倍政権としては敢えて多くの国民そして公明党の拒否反応が強くハードルの高い9条改正に踏み込まなくてもいいという考え方もある。」と述べている。あえてやるとすれば自衛隊を合憲とする9条への加憲で、これは公明党とのすり合わせもできているそうである。
 なんと僕が思っていたとおりのことを安倍首相が言い出した。
 加えて天皇からなげられたボールに対しては、「生前退位は認めるべきだが、まずは特措法で認め、その後で皇室典範の改正も検討すればいい。女性・女系天皇も。やらざるを得ないでしょうね」。あれあれこれでは益々ガラホの皆さんは立つ瀬なしではありませんか。
 しかし、これは超現実的な政治の世界で首相が学んだこと。アジアで唯一G7のメンバーである日本です。日本以外は全てキリスト教国(米英仏伊独加)。G20が目立ってもまだ世界政治の中心の中心は未だG7。西洋民主主義国家からアジアで唯一認められている国である日本が、かつてこの国と喧嘩した頃の価値観に戻ることは百害あって一利なし。戻ることはあり得ない。加えてエリザベス女王が象徴するように女性が元首になれるのは当たり前。万世一系などのガラホ思想はどう考えても生き延びる道無しと言えよう。
 その道を進むしかない安倍首相は、自らを支え応援して来たガラホの皆さんからは「裏切り者」と批判されることになる。政権基盤は弱まる。加えてアベノミクスの失敗もその流れに拍車をかけよう。そうなると首相がやりたい3期9年への自民党総裁任期延長も黄色信号がともりだす。当然、2020年東京オリンッピクを自らの手で開催したいという野望も消え失せる。

 そこで今、首相が血道を上げるのが外交。拉致問題は先が見えない。それではと勢い増しているのがロシア、プーチン大統領との会談である。行き詰まっている領土問題の解決へ突破口を見いだしたい。そして支持率上昇の中で解散総選挙に打って出る。そして今度こそ、自民党単独で3分の2をとる。
 もちろん領土問題の解決に向かって動くことは良いこと。僕も応援しているが、プーチン大統領との交渉はそう容易くはない。大幅譲歩なんてことをしたら益々保守側から非難されよう。
 行き場を失いつつあるように思う安倍政治である。

2016-09-16 | Posted in 日記No Comments »